この連載では、ランドセルづくりに欠かせない“道具”とその道具と向き合う“人”をご紹介いたします。
今回登場する道具:腕ミシン 人:阪口茉奈美さん
腕ミシンは、プレッシャーとの戦い
ガシャ、ガシャ。タタタタタタ・・・。
予め目打ちで開けた穴に、一針一針ゆっくりとミシンの針を落としていく。そして、ミシンと革が一体化しているかのようにリズムよく針を進めていく。「毎日行う作業ですが、毎回緊張します。慣れることはありません」、入社4年目の阪口さんは言います。
鞄工房山本で使うミシンの形態は全部で3種類。大マチのまとめや前段の口前などを縫う際に使う「腕ミシン」。前段にファスナーを付ける際などに使う「平ミシン」。モチーフなどを縫う際に使う「コンピューターミシン」があります。阪口さんは入社後しばらくしてからコンピューターミシンを担当するようになり、2年目から平ミシンを、そして昨年から腕ミシンを担当するようになりました。
「腕ミシンを使うときはいつもプレッシャーと戦っています。特に大マチを縫う工程はそれまでの工程のまとめ。そこまでの段階で多くの人が関わってきたパーツをまとめる工程なので責任重大です。だから無事にその日の作業が終わったときは、心からほっとします。」
腕ミシンをかける前に阪口さんが必ずすること。それは、その時の作業に合わせて、また革の厚みに合わせて糸の調子を設定すること。「糸は色によってもそれぞれ撚り具合が違うので、毎回の作業ごとに糸調子を設定しなければいけません。糸調子が合ったら気持ちよく縫うことができます。反対に、どう設定しても、し直しても、糸調子がうまくいかないこともあります。」
昔から絵を描くことやものをつくることが好きだったという阪口さん。しかし、縫い物は未経験でした。「ミシンを担当し始めた当初は悪戦苦闘していました。今は30分でできることも以前は半日かかったりして。でも、最近は『コツをつかめた!』と思える瞬間があります。自分の成長を日々感じられるところがミシンの楽しいところですね。」顔をほころばせつつも、「もっときれいに縫う方法があるんじゃないか、常にそう思って仕事をしています」と職人の顔をのぞかせます。
日々腕ミシンと向き合う阪口さんは高い目標を持っています。
「鞄工房山本の先輩たちは縫う“技術”だけでなく、言葉では説明できない“感覚”をつかんでいると思います。どうすればきれいに縫えるかよくわかっている。私も経験を積んで、そんな“感覚”を磨いていきたいと思います。」
今日も工房では、緊張しながらも楽しそうに腕ミシンに向かう阪口さんがいます。