奈良の工房店に飾られている小さなランドセル。
一見、単なるミニチュアのランドセルかと思う人も多いであろう。
しかし、そのランドセルにはある物語があった。
ランドセルと子ども、そして親の気持ちを理解しているからこその行動。それはなんだったのか。
小さなランドセルに込められた物語
小さなランドセル。第一印象はかわいいランドセル。ペットでも使えそうなそんな大きさだ。しかし、それは特別な目的で本来つくられた物だったのは知られていない。
あらかじめ言っておかなければならない事は、この小さなランドセルは過去の話であって、今はやっていない、という事。
さて、あるきょうだいがいた。上の子が鞄工房山本のランドセルをつかっていたそうだ。下の子もそのランドセルを見て、自分が小学校に入学する事を楽しみにしていたそうだ。自分のランドセルを背負って学校へ行く事を。
もちろん、親もそうだった。
しかし、下の子が天へと召されてしまった。
その話を聞いた工房主は、いてもたってもいられなくなり、型の存在しない小さなランドセルをつくり始めた。
親の気持ち、子の気持ち。どちらも十分理解できたからこそ、何かをしてあげたい。その一心だった、と言う。
型がない、ということは、型入れから、裁断、縫製など、すべての工程を一から行なわなければならない。時間のかかる作業である。本来の大きさのランドセルを忠実に再現したミニチュアランドセルを、その子のために。様々な人の想いが詰まったランドセルが作られたのはそんな理由からだった。
それが下の子の仏前に飾られているそうだ。
「話を聞いたとき、とにかく何かしてあげたい、と思ったんです。自分の出来る事を考えたら、小さなランドセルをつくる事に行き着きました。なんとかして、入学式に間に合わせようとがんばりましたが、少し遅れてしまいました。」
そう工房主・山本一彦が振り返る。
このエピソードからわかる事は、山本自身が子ども、家族という存在がいかに大切なものかと思っているか、という事。
小さなランドセルにたくさんの想いを詰めて。そして、みんなが少しでも笑顔でいられるように。
工房主が抱く想いは、鞄工房山本が大切にしている心なのである。