鞄工房山本から車で約15分。近鉄大和八木駅前の商店街にある、「やさい菓子工房 cocoai」さん。
すべての材料にこだわってつくられているのは、見て笑顔、食べて幸せな「からだと心にやさしいお菓子」。「心に愛を」という言葉が由来の「cocoai」という名前の通り、愛にあふれたケーキ屋さんです。
やさい菓子工房 cocoaiさんができるまで
今回私たちは、店長でパティシエールの原田さんにお話を伺いました。
実は原田さんは、生まれも育ちも奈良県の橿原市。「この土地でお世話になって、育ててもらった」という思いをいつも胸に抱いています。この日は、お店から歩いてすぐ近くのところにある、原田さんのご両親がおじいさまから受け継いだ喫茶店にもおじゃましました。
もともと、お菓子づくりは趣味として楽しんでいた原田さん。お店を開く前は、ピアノが好きということもあり調律師として働いていました。ちょうどその頃、忙しい生活を送るなかでアトピー性皮膚炎が悪化。特に顔の肌に症状が出たということもあり、お医者さんの指示に従って、必死で食事制限に取り組みました。油や小麦粉、牛乳に砂糖……。普段何気なく口にする食材について徹底的に気をつけた結果、なんと一週間で綺麗さっぱり症状が改善!
「私たちは食べたものでできている」と、あらためて食の大切さを実感した出来事でした。
その後のある日、ご両親が営む喫茶店の近くの店舗に空きが出たということで、お店を出さないかとお父さまから提案を受けます。
来てくれる地域の人たちが幸せになれるようなお店をつくりたい。自分がつくったお菓子を食べて喜んでもらえるとうれしい。食について勉強していて、野菜が好き。そんな、原田さんの「心がワクワクすること」がかけあわさり、導かれるように、ここ橿原に野菜のケーキ屋さんが誕生することとなりました。
その頃ちょうど時を同じくして、ご結婚。人生における大きな決断のタイミングが重なったことで、一時はお店をはじめるかどうかを迷いましたが、その時々で家庭とのバランスを取りながら取り組んでいこうと決めました。しばらくしてから仲間に加わった旦那さまは、今も経営面から力強くお店を支えています。
愛の込もったスイーツ
お店でつくっているのは、保存料や着色料などの添加物を使わず、素材そのものが持つ自然の味わいを生かしたお菓子です。多くのお客様に安心して食べて喜んでもらうため、奈良県産の野菜や小麦粉など、こだわりを持って一つひとつの材料を選んでいます。
例えばその一つが、「太白(たいはく)胡麻油」。これは、遺伝子組み換えの大豆やとうもろこしを高温で搾ってつくられる一般的な油とは異なり、胡麻を生のまま搾るため酸化していない油です。太白胡麻油を使うと、お菓子自体も酸化しにくく、あっさりとした風味で生地もふわっと仕上がるそうです。お店には、バターの半量を太白胡麻油に置き換えてつくったお菓子も多数あります。
野菜ソムリエの資格を持つ原田さん。お菓子に野菜を取り入れた理由はいくつかあります。
一つは、食について学ぶなかで知った野菜が持つ効能や、野菜を食べて得られる効果を伝えたいと思ったから。また、野菜を食べる機会が少ない人にも野菜を身近に感じてもらうことでライフスタイルを見直すきっかけになればいいなという願いも込めました。そして何より、「どんな味がするんやろう?というワクワクを感じてほしいから」です。
はじめからアレルギーを考慮したというよりは、「みんなに喜んでもらいたい」という一心でからだに負担の少ない原材料を選んでお菓子をつくったところ、安心して食べられるやさしい野菜のお菓子ができあがったのでした。
突然ですが、ここで問題です!
次の写真に写っているケーキは、一般的なガトーショコラとは一味違います。はたして、何の野菜が入っているでしょうか。
正解は……、
「大根」でした!
他には、「おから」が入っています。商品名はその名の通り、「ガトーおから大根」。しっとりとした食感ですが重たくなくて、オーガニックのチョコレートやココアのやさしい甘さが感じられます。原田さんのお子さまも大好きなケーキです。
お店に並ぶお菓子は、常時20~30種類ほど!使われている野菜は、さつまいもやトマト、かぼちゃにほうれんそう、にんじん、ごぼう、ズッキーニなど。どの商品も、それぞれの野菜の奥深い魅力を引き出しながら、原材料とバランスよく組み合わせて生み出された、他にはない特別なスイーツです。
そんな、スタッフ皆さんの愛が込もったお菓子にはファンがいっぱい!「年齢を重ねると、生クリームがしんどくなってきて……」という方々からも、やさい菓子工房 cocoaiさんのケーキは「まるごと1個どころか2個でもいける」とか、「胃もたれしないし、次の日にプツプツができない」などというお声をいただくことが多いそうです。
接客中に原田さんが思わず「癒やされる」という瞬間が訪れるのが、顔なじみのお客様がお仕事やお買い物の帰りにお店へ立ち寄って、ケーキを購入してくださるときのこと。お客様がケーキを選ぶ様子を見ながら、「今日、晩ごはんの後にこれを旦那さんと二人で食べはるんやなあ」と思うと、「なんかいいなあ」と心がじんわりとあたたかい気持ちで満たされるそうです。
特別な時だけではなく、何気ない日常にも寄り添うケーキ。そんなことを感じる素敵なエピソードでした。
新しいお菓子をつくりだす「まちのみんなのケーキ屋さん」
人気商品の一つである「月の誕生石」(栗と長いものモンブラン)は、奈良県にある畿央大学の授業の一環で学生さんたちとともに商品化したケーキです。あるお寺のお坊さんとコラボスイーツをつくる際には、以前お菓子に取り入れることを一度は諦めたアボカドに再挑戦し、アボカドとヨーグルトのムースをつくりあげました。
こちらの「低カロリータイプクッキー」は、砂糖や動物性脂肪を控えなければならない方でも安心して食べられるようにと、奈良県立医科大学付属病院の糖尿病センターの栄養士さんとともに開発しました。低カロリータイプクッキーや砂糖不使用のクッキーと焼き菓子のセットは、橿原市のふるさと納税の返礼品としても人気です。
たくさんの人々の愛が集まり、地域に根ざして発展し続けているお店ですが、これまでの道のりは決して順風満帆というわけではなく、苦労や失敗もたくさん経験したそうです。お店の開店後は特に忙しく、色々な面でペース配分の調整が難しかったり、経験がないために必要な材料を見積もって発注するのに苦戦したり、お菓子のベースや新商品をつくりだすために試行錯誤を繰り返したり……。
いつも「みんなに喜んでもらうこと」を軸に、多くの人とつながりながら、望みにこたえるスイーツをつくり届けてきたお店は、今年オープンから9年目を迎え、ますます愛されています。
理想のケーキと幸せな未来をめざして
原田さんの理想とするケーキは、小学生の頃、書道の先生がクリスマス会で焼いてくれたりんごのケーキ。生地にりんごを入れて「ぐるぐる混ぜただけの焼きっぱなしのケーキ」が、「めちゃくちゃおいしくて……」と今でも記憶に残っています。お家で焼いた素朴なケーキにしかない心のこもった味を理想として、ケーキをつくろうと心がけています。
ポジティブなエネルギーで輝く原田さんには、いつか叶えたい夢があります。それは、大和八木店以外にも地元でもう一軒、愛に包まれた心地よいお店を開くこと。
心に描くのは、田んぼや緑に囲まれたひらけた場所に建つ、古民家風の建物。「そういう目の前がぱーっと緑のところの、もうちょっと広い土地で、自然な感じでゆったりとつくる」お菓子を、心を込めて全国へお届けする。もちろんそのお店でお菓子を買うことができ、「庭にちょっと遊具があったりして、子どもさんが遊べて、親はお茶ができて……みたいな感じ」。
目を閉じれば、すぐにそこからその穏やかな風景が広がりはじめるような、素敵な夢です。
今はその夢を実現するためにも、スタッフさんとのコミュニケーションを大切に、それぞれのスタッフさんに得意なことを任せられるシステムづくりなどについて学んでいます。
おいしいスイーツを味わいたいときや、ちょっと元気を出したいとき、やさい菓子工房 cocoaiさんのスイーツを食べて、ほっと一息ついてみてはいかがでしょうか。かわいらしく飾り付けされた店内に入るときっと、あたたかい店内の雰囲気やスタッフ皆さんの笑顔に癒やされるはずです。
お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りくださいませ。
商品によっては、インターネットからお取り寄せすることも可能です。詳しくはWebサイトよりご確認くださいませ。
やさい菓子工房 cocoai
〒634-0804奈良県橿原市内膳町5丁目1-13 近鉄八木駅前名店街内
TEL:0744-23-5636
営業時間:10:00~20:00
定休日:水曜日