こんにちは。奈良本店の竹森です。
9月になり、学校は新学期が始まりましたね。
今年は猛暑の夏でしたが、夏休みはたくさんの楽しい思い出ができましたでしょうか。
さて、第2回目となりました「ランドセル このパーツなーに?」。鞄工房山本のランドセルについて楽しく知っていただきたい!という思いから始まったこの企画。今回は「タレ班」からの出題です!
「タレ班」ってなーに?
タレ班はランドセルの「かぶせ(フタ)」のパーツをつくる班です。
かぶせはランドセルの「顔」であるため、見た目はもちろん綺麗に、それに加えて毎日開け閉めをして動かすパーツのためしっかり丈夫でなければなりません。ランドセルづくりで一番最初に行う「型入れ」は、牛半頭分の大きな革を広げ、どこからどのパーツをとるかを決める重要な工程です。かぶせは、よく開け閉めするパーツのため、牛革シリーズのかぶせの根本は牛革の中でもより丈夫な「牛の背中」からパーツを取ります。
また、ランドセルを開けたときに楽しい気持ちになっていただけるよう、女の子のシリーズではかわいらしく、男の子のシリーズではかっこいい内装に仕上げています。
ちなみに、当社のかぶせのデザインは大きく分けて2つあります。一般的なランドセルに多いヘリを巻いて仕上げる「ヘリ巻き」ランドセルと、かぶせの裁断面にニスを塗って仕上げる「コバ塗り」ランドセルです。
今回は、鞄工房山本のランドセルの特徴の1つである「コバ塗り」ランドセルのパーツから、クイズを2問出題いたします!
このパーツなーに?(第1問)
ひとつめはこちら!
変わった形の革パーツですね。頭にのせて、「カブトムシの角」!?なんて、工房のスタッフも楽しく取材に応えてくれました。さて、こちらはランドセルのどの部分でしょうか。
今回はつくる様子をご覧いただきながら、どのパーツか考えていただければと思います。
では、さっそく見学していただきましょう!
まず、先ほどの革は表と裏2枚に糊を塗って乾かし(乾かすことで粘着する糊を使用しています)、内側には補強材となる「盛り」を貼ってから、表裏を貼り合わせます。貼る前に、なにやら糊を塗った面を手で撫でて確認しています。
ノリの塊やゴミがついていると革の表面に響いてしまうため、一つひとつ確認して小さなノリ玉も取り除いてから2枚の革を貼ります。「そんなところまで?!」と思われるかもしれませんが、良いランドセルをつくるため細かいところまで手を抜かないのがこだわりです。
手で丁寧に張り合わせた後は、プレス機でしっかりと圧着させます。
その後、きれいな形に抜き取り、ダイヤモンドのヤスリがついたローラーで角を削り落とします。
角を削ってなめらかにした後は、一枚一枚丁寧に裁断面を磨きます。
磨き終えた後は、いよいよコバ塗りランドセルの特徴であるニスを塗る工程です。
機械を使って一つひとつムラのないようにニスを塗ります。
ニスを塗って乾かした後は、ニスの表面をなめらかにします。
革の毛羽立ちが強いところは手でサンドペーパーをかけて、毛羽立ちを落とします。実際に触り比べると1度目のニスを塗った直後ではざらざらとしていましたが、とても触り心地の良いなめらかな表面に変わりました。
そして、更に重ねて2度目のニスを塗ります。小さなパーツですが細かいところまで丁寧にニスを塗って仕上げます。
その後、ミシンで縫い合わせて、先端に小さな革パーツと金具を取り付けると完成です!
最後に、完成したかぶせに縫い合わせて飾り鋲を止めます。
みなさん、もうおわかりでしょうか。正解は……。こちら!
かぶせと下がり(オートロック錠前と合わさる金具)を繋ぐ「ベロ」と呼ばれるパーツでした。
さりげないパーツですが、完成までは想像以上の数の工程を経ていました。ちなみに、ランドセルができあがるまでの工程は300工程以上もあるというから驚きです!今回はその中のほんの1部でしかありません。
みなさま正解できたでしょうか。
では、続いて第2問です!
このパーツなーに?(第2問)
じゃじゃん!続いてはこちらです!
中央には膨らみがあり、可愛らしい山のようなパーツです。
さぁ、これはランドセルのどの部分でしょうか。
こちらも完成までの様子をご覧になりながらお考えください!
先ほどの山の形に裁断されたパーツは、その後「あら割り」と「化粧割り」という革を薄くする工程に入ります。「割り」
とは、革や人工皮革を均一に薄く漉く工程です。裁断直後は裁断面に毛羽立ちが多く、コバに綺麗にニスを塗ることができないため、「あら割り」である程度のケバを落としてニスを塗りやすくし、裁断面にニスを塗った後「化粧割り」をするそうです。
(裁断については今後、裁断班のクイズ出題で詳しく紹介いたします。お楽しみに!)
2度の割りを終え、ちょうどよい厚さになりました。ここで、あるモチーフのステッチをミシンを使って縫い付けます。
ステッチの縫い付けは、人の目で見てダイヤルで糸調節をしながらの作業です。強めると下糸が表側に出てきていまい、逆に弱くしすぎると裏側に糸が余ってしまいます。「革の硬さ、ミシンの調子、糸の減り具合によってミシンのかかり方が変わるので、その時々に合わせて調節をしています。」とタレ班の班長は話します。
私からすればとても早いスピードで縫い付け、その後のチェックもこなす班長ですが、「慣れるまでは縫い目を見るのに時間がかかってしまいます。自分もまだまだです。」と、話してくれました。
針が通るところを目で追い、終わったあとにはミシンがきれいにかかっているか目を凝らして念入りにチェックします。
ミシンで描かれたのは、当社で女の子に人気ランドセルのモチーフ、ティアラのステッチです!
もしかすると、すでにどのパーツかお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんね。
その後は熱風をかけて糸の毛羽立ちを取り、これで終了!と思いきや、見えないところもきちんと処理をほどこします。
先ほどのステッチを縫い付けた革を裏返し、なにやらハケで塗っています。
縫い付けたステッチが表側にゆるんでこないよう、糊を塗って糸を止める工程です。糊づけの後しばらく乾かし、乾いたところを指で押さえつけ糸を貼り付けて解けないようにします。糊の量を多くしすぎると表にひびいてしまうため、革の種類に合わせて絶妙な量をハケですくい取って塗っているそうです。
その後、仮止めのテープでパーツをかぶせに貼り付け、「ガク横」と呼ばれる縁の部分も同じように貼り付けます。
貼り付けた後は、なめらかな裁断面になるよう角を削り、先程にも登場した「コバ塗り」でニスを塗ります。
そして最後は、ミシンでしっかりと縫い合わせます。
先ほど貼り合わせたパーツの隙間に針が落ちてしまわないよう注意を払いながら、丁寧にミシンの針を入れます。
慣れた手付きで縫い進めますが、革のつなぎ目やカーブはゆっくりと慎重に。カーブのピッチを合わせるのが大変な作業のようで、「ミシンが進みたがっているよりも、進まないよう抑えながら縫い合わせている」とか。なんとも難しそうです。
ここまでくると、もうランドセルのどの部分かおわかりになりましたね。
後はベロと組み合わせて、お花の真ん中にキラッと輝くスワロフスキーを取り付ければ、かぶせの完成です!
正解は、「ガク下」と呼ばれるかぶせ下部の革パーツでした!
こちらは、「コバ塗り」ランドセルならでは、のパーツです。
女の子に一番人気の「
ラフィーネ」や、ハートモチーフが特徴の「
ウィッシュ アポン ア スター」では、こちらのパーツにステッチの模様が入ります。コバ塗りでシュッと引き締まった大人っぽさの中に、可愛らしいモチーフがつくランドセルは当社で特に人気のあるランドセルです。
みなさまいかがでしたでしょうか。2問とも見事正解できたでしょうか。
技が光る!コバ塗り
「タレ班の見どころと言えば?」と尋ねた所、やはり「コバ塗り!」という答えが返ってきました。
スーっとニスを塗っている様子を見せてくれたスタッフでしたが、実は「きれいなコバに仕上げるため、ニスを一定に塗るのはとても難しい」とのこと。また、塗ったところはすぐに乾かないため他に触れないようにすることも一苦労のようです。
コバはニスを多く付けすぎるとダマになったり滲んだりしてしまいます。ニスを塗るときは、量を調整するひねりを回してニスを流し絶妙な量を塗ります。湿度や気温によってもニスの調子が変わってしまうため「角度・スピード・量」が大事と話してくれましたが、とても言葉では説明することができない、毎日の作業で養った感覚であると感じました。
どんなことを考えながら仕事をしているか尋ねると、「使う方に喜んでもらうようにっていうのはいつも意識しています。」といった答えが。
コバ塗りは、革の表情(繊維が荒いところや詰まっているところ)によって個体差があり、ニスの付き方が変わることがあるそうで、「ニスを塗るときは差がでてしまわないよう、均等になるように気をつけて塗っている。お客様に均等の愛を届けられるように。」なんて、ジョークも飛び出しました。
とても楽しそうに話を聞かせてくれましたが、もちろん冗談だけではなく一つひとつに想いを込めて作業をしていることが伝わってきました。
「ランドセルの『顔』」をつくること
最後に、タレ班にランドセルづくりに込める想いを聞きました。
タレ班のスタッフが口を揃えて言っていたのが、「かぶせはランドセルの『顔』」であるということ。
班長からは、「他のパーツももちろんですが、ランドセルの『顔』になり目立つ部分なのでよりいっそう気を使い、きっちりと丁寧な作業を心がけています。また、よく動かす部分で触れることも多いため、見栄えと触り心地のどちらも気持ちよく使っていただけるように気をつけています。」とランドセルへの想いを聞くことができました。
もちろん、班のこだわりはコバ塗りだけではありません。
先ほど、タレのミシンをかけていたスタッフ。ダダダと一定のリズムで簡単に扱っているように見えたミシンでしたが、話を聞くとそれは努力の結晶であることがわかりました。
工房スタッフには学生の頃にものづくりの勉強をしていたスタッフもいますが、このスタッフもその1人です。
「学生の頃は服の勉強をしていてミシンをかけていました。革を縫うことは鞄工房山本に入社するまでありませんでしたが、やはりミシンをかけることが好きなので仕事がとても楽しいです。」と笑いながら話してくれました。
簡単そうに見せてくれた作業でしたが、「針を1針だけ進めて止める」その動きがとてもむずかしく、最初の頃はその動きができるようになるため1日の仕事が終わった後に地道な練習をしていたそうです。
「かぶせはやはり『ランドセルの顔』なので、自分がもらって嬉しいものをつくるようにしています。」納得ができないものは、そのままお客様に届けることはしない、と自身の仕事に誇りを持って取り組む姿勢を見せてくれました。
タレ班スタッフの熱い想いをお伝えしたところで、第2回「このパーツなーに?」は終了です。
次回は、ランドセルの中で一番大きなパーツをつくる「大マチ班」からの出題です!みなさまどうぞお楽しみに。
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