鞄工房山本 奈良本店から車で5~7分ほどのところ、風情あふれる町家が並ぶ路地にある「NAZO BALI」さん。心を込めて準備される自家焙煎のコーヒーやケーキ、バリの料理を楽しめるお店です。
週末限定でお店を営業
NAZO BALIさんのオーナーは、「コーヒーが好きで、カフェをやりたいと思っていた」というバリ出身のアルディカさんです。島根出身の奥様もお店を手伝っています。
バリで出会って結婚し、その後しばらくはバリに住んでいたご夫婦。アルディカさんが長男、そして奥様も長女だったことで、お互いの親のことも考えて、バリと日本に3年ずつ住むことにし、3年後に日本へやってきます。そして、それから3年後に再びバリへ戻るはずが、日本での暮らしがすっかり気に入り、そのまま日本で住むことにしました。
実は、こちらのお店が開くのは週末だけで、現在お二人は大阪に住み、平日は別のお仕事をしています。
お店を開く場所に明日香村を選んだのは、遺跡が好きなアルディカさんが、たまたまバリで明日香村の写真集と出会ったことがきっかけです。棚田や石造の遺跡がある明日香村の風景がアルディカさんの地元の風景とよく似ていたことから、それ以来親しみを感じていたそうです。
お二人で今後について相談するなかで、ともに「いつかは明日香村に移住したい」という思いを持ったことから、週末だけ明日香村でお店を開けることにしました。
「家族皆バリが好きで、子どものときからお休みがあるとバリへ行っていたんです」という奥様。奥様が学生の頃、バリの友達の一人から「自分の田舎で大きなお祭り事があるから来ない?」と誘われてお祭りへ行ったところ、にぎやかに屋台が並ぶ道端でアルディカさんと出会います。偶然にも、奥様の友達とアルディカさんがとても仲良しな幼馴染だったのでした。
出会ってから友達でいる期間が長く続くうちに、「いつのまにかわからないですけど、結婚しますかって」と笑うアルディカさん。奥様も「気づいたら結婚してた」と笑顔で当時のことを振り返ります。
店内のインテリアからは、バリの雰囲気とお二人の親しみやすくあたたかい人柄が感じられます。
お二人が「全部バリから持ってきた」という壁にかかる素敵な絵のいくつかは、なんとアルディカさんが描いた絵です。本格的な絵を見てお察しになる方もいらっしゃるかもしれませんが、アルディカさんの本業は絵を描くことです。
ちなみに、店名についた「NAZO」という言葉には、こんなエピソードが……。
物件を借りたお二人はそれ以降、毎週末大阪から明日香村に通い、約半年がかりで少しずつ時間をかけて建物や設備のリノベーションを行い、お店を完成させました。その間、週末ごとに少しずつ作業を進めるお二人の様子を見守るご近所の方々の間では、「あそこ何やらはるんやろね、謎やね~」と噂になっていったそうです。それを知ったお二人が店名を検討する際に、「『謎』にしとこっか」と、そのお話を名前に取り入れたのでした。
お店のオープンから2年が過ぎ、今ではすっかりご近所の皆さんにも親しまれています。
からだに優しく、安心・安全なものを
NAZO BALIさんの料理やケーキはすべて、材料や製法に一つひとつこだわり、丁寧に手間暇をかけてつくられています。
化学調味料やインスタントの調味料、遺伝子組み換えの油を一切使わず、スパイスはインドネシアから持ってきた生のものを石臼でつぶして使います。調理には電子レンジを使わず、土鍋でご飯を炊き、アルディカさんがつくったオーブンでパンやケーキを焼いています。
お店のこだわりを尋ねると、「自分たちが食べたいもの、うちでつくるものを出しているだけなんですね。なので、できることといったらできたてのものを出す、そこだけですね」と話す奥様。
野菜やお米などの材料は、安全なものをしっかりと選んでいます。自然栽培やオーガニックの野菜は、毎週金曜日に開催される市場「明日香ビオマルシェ」で仕入れたり、ご近所の農家さんの無農薬野菜とお店の自家焙煎コーヒーを物々交換したり、親戚の農家さんにお願いしてつくってもらったりするものを使っています。ケーキを焼くための米粉は、明日香村で自然栽培されたものです。
自然栽培の野菜との出会いは、まさに一期一会。日によって材料として使う野菜が異なり、野菜にもそれぞれの個性があるため、つくる度に味わいが変わります。
安心できる材料を使い、たくさんの愛情を込めてつくられる、できたてのご飯。穏やかな時間の流れる店内でいただくと、お腹も心も幸せな気持ちでいっぱいになりそうです。
準備できる材料には限りがあり、ご飯はどれも注文を受けてからつくるため、お二人が提供できるランチは一日で多くても10食ほど。ご興味を持たれたお客様がいらっしゃいましたら、
Webサイトもしくは
Facebookより、事前にご予約くださいませ。
また、「一番新鮮なコーヒーを出したい」という想いから、アルディカさんが毎週必要な分だけ焙煎を行って抽出するコーヒーもおすすめの一つです。こちらのコーヒー豆の焙煎機は、アルディカさんのお手製です。
コーヒーのメニューは、浅煎りと深煎り、それらを混ぜたブレンドの3種類。どれも同じ東ティモール産のオーガニックのコーヒー豆を使っていますが、焙煎の方法を変えるだけで、違う味わいを表現しています。
この日、お二人のご厚意で、コーヒー(浅煎りと深煎り)とバナナケーキをいただきました。
浅煎りは、フルーティーな香りで、どこかお芋のような甘さも感じ、お茶に近いような風味と後味。深煎りは、一般的によく親しまれるコーヒーの香りと風味を楽しめながらも、苦味がなくとてもマイルドでした。どちらも、普段はコーヒーが苦手だという方にとっても飲みやすく感じられる味わいで、アルディカさんも「コーヒーが苦手な子どもさんとかでも飲めると思う」とおすすめするコーヒーです。
こちらのバナナケーキを一口食べてまず感動したのが、そのもっちりとした食感! 材料は、自然栽培のお米からつくった米粉とオーガニックのバナナ、ココナッツミルクです。食べごたえのあるしっとりとした生地に、ほんのりと優しいバナナの風味を楽しめる、味わい深いケーキでした。
似ているところがたくさん! バリと日本
アルディカさんいわく、「バリは昔の日本みたい」。バリでは今も、たくさんのお祭り事が神事として地域に根づいていたり、丁寧で細かい手仕事が村や家に代々受け継がれていたり、ご近所の付き合いや人々のつながりがとても深かったりするそうです。
バリと日本は、自然の風景や石造の遺跡の雰囲気が似ているほか、例えば「三猿(見ざる言わざる聞かざる)」のように、両国で同じような言い伝えがあったり、自然や日常生活のあらゆるところに神を感じたりするところなど、奥様も「色んなことのルーツが同じなんじゃないかと思うくらい」というほど、似ていると感じるところが多いといいます。
一方で、一年を通して行われるさまざまなお祭りを村の皆で執り行い、その度に100人ほどが自宅に出入りするという、バリならではのにぎやかな文化もあります。そのようなお祭りでは、男性が料理を担当するため、バリには料理が得意な男性が多いそうです。NAZO BALIさんでいただけるバリ料理は、アルディカさんのご実家の味がベースです。
また、お店では、実際にバリやインドネシアでつくられた手織りの布や植物で編んだお皿、木の器などが展示・販売されています。
こちらは、お祭りのときやお寺に入るときに身にまとう手織りの布です。天然の染料を使っていたり、「ろうけつ染め」という時間のかかる昔ながらの方法で染めをほどこしていたり、日本の紬や絣と同様の技術を用いて文様を描きだしていたり……。お店で出会える素敵な布は、どれも祈りを込めて織られた、二つとない特別なものです。布に描きだされる文様にはすべて意味があり、代々伝わるデザインは村や地域によって異なるそうです。
店内の飾りのなかでも特に存在感を放っていたのが、こちらです。お祭りのときに行う「ワヤン」という影絵芝居で使われる人形で、全部で500以上も種類があり、なんとそれらはすべて異なるデザインなのだとか! 動物の革でできているとは思えないほど繊細なつくりで、手前から光を当てると、白い壁に幻想的な影絵が浮かび上がりました。
皆さまもお店に行かれた際はぜひ、自然の素材を用いて心を込めてつくられた数々の品にふれたり、お二人とお話をしたりして、バリの奥深い魅力を感じてみてくださいね。
家族のように迎えてくれる、アットホームなお店
村でお祭りがあれば喜んで参加し、「(明日香に来ると)リラックスした感じがする」という明日香村が大好きなアルディカさんと、「お客様から『おいしかった!』と言われるとそれだけで救われるし、一番幸せなのは、誰も知り合いがいなかった奈良に友達とか仲間ができたこと」という奥様。いつも、ご近所の皆さんや自然栽培の農家さん、お客様との出会いに感謝し、明日香村で過ごす時間を心から楽しんでいます。
そんなお二人が営むからこそ、店内の雰囲気はあたたかく、つい長居してしまうような安心感で満ちているのかもしれません。お店のこれからについては、これまでと変わらず、お二人の無理のない範囲で「(お店を)淡々と続けていきたい」と話します。
皆さまも機会がございましたら、たくさんの共感や新しい発見があるバリの豊かな文化にふれ、心身ともに安らぐ時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。お二人の人柄そのままの優しい味わいやお店の雰囲気に癒やされ、きっと穏やかな気持ちになれると思います。
お店の営業日時や交通アクセスなど、詳細につきましてはWebサイトにてご確認くださいませ。
NAZO BALI(Facebookは
こちらから)
〒634-0103奈良県高市郡明日香村飛鳥695-1
TEL:080-3544-0242