夢こうろ染(4) 〜無限の可能性~
「お互いにあれこれ言わなくても、それぞれが最良のものを作れる。それが専門家同士のコラボの強みなんですよね」と、夢こうろ染を使ったランドセルづくりの過程を思い出しながら、奥田祐斎先生は振り返る。
「料理人がどこかで食べたものの9割を言い当てる事はできて、残りの1割でアート性やオリジナリティを付け加えて行く。それが面白みにも味にもなるんですよ。」
そう言って紹介してくれたのがギャラリーに掛けられた不動明王のタペストリー。とある有名な人物が仏画作家として活動するためのデビュー作をつくるためにコラボしたのだが、お互いが事細かに話す事は必要なかったという。
原画と線を描いてもらい、奥田先生が染めをその後行なう。それぞれが自分の感性を最大限に活かして作って行く。アートである。
ちなみに、その有名な人とは、漫画家・原哲夫氏。北斗の拳の原作者だ。仏画を描く時は象山(しょうざん)という名前で活動する。繊細な線でありながらも、力強く描かれた不動明王。夢こうろ染で染められた布は、当たる光により炎が浮かび上がってくる。何とも幻想的な作品である。
このように、最高の技術を持った人がつながる事で発生する化学反応というものは無限の可能性を秘めている。
「誰しもが天才になれる」
それが、工房主の長男、一暢に教えた言葉だという。
「天才ではないのだけれども、感性においてはみんな同じだから理解しあえる。あとは表現力をどう身につけていくのか。そして人間性も。それらは求めていけば身に付けて行ける事である、というのが僕の基本的な考え方です。」
それぞれが、得意な事を自分なりの味で最高なものにしていく。最高なものをつくるための探究心は忘れてなければ、天才に皆がなれる、ということだ。
そんな天才が手を組むと、普通では想像のできないものが作り上げられる事も納得できてしまう。しかし、奥田先生はどうやって『天才』になったのであろうか?
学生時代は「超劣等生」だったと笑う。勉強よりも剣道と芸術に時間と力を注いでいたと言う奥田先生。
「1+1の答えが2ではない、という考え方を活かすためには、アートの世界がいいんですね。計算通りにやってしまうと味が出てこないんです。建築には数字の計算が必要で、きっちりやらないと大変な事になってしまう。ですが、芸術はそうではない。」
無限の可能性への挑戦を十代の頃から突き詰めてきたからこそ行き着いた言葉なのである。