夢こうろ染(10) ~ランドセルへの『憧れ』〜奥田祐斎先生~
奥田祐斎先生にとってランドセルとはどんなものであったのだろうか?
「憧れですね。ランドセルを作ってもらえなかったので。」
布製の肩掛けカバンで登校していたという。当時は裕福な家庭の子どもしかランドセルが持てなかった時代。
「だから、自分の染めが使われたランドセル、というのを見られてうれしいですよ。」
最初に出来上がった夢こうろ染のランドセルを見た時にした事は、どこに使われているのか探した、という。
「あー、額縁かぁ。ええやん。」
そんなランドセルが使う子どもたちや親にとって喜ばれている事に対して素直に「うれしい」と語ってくれた。
「コードバンという極めつけの素材に夢こうろ染という極めつけの染め。いろんな極めつけが入ったランドセルはやっぱりかっこいいですよね。」と目尻を下げ微笑みながら話す姿が印象的だ。
このランドセルも、誕生から3年。まだまだ発展の可能性はあると思っている。デザインとしてこうろ染をより大きく使う事や、色の変化をショッキングに変える事で交通安全に役立てる事もできる、と語った。自分は持てなかったランドセルだが、子どもたちにとってより良いランドセルを、自らの技を用いてどう表現できるか。
こうろ染の時には六芒星の地が描かれたものもある。こういったデザインは実は世界共通のデザイン要素だとも教えてくれた。
「日本では竹籠を編んだ時の形ですが、世界では紀元前から用いられているデザインで、中国では六芒星、ヨーロッパではダビデと呼ばれています。この形は誰でも好きになれるデザインなんです。これを言葉に代えると『ありがとうございます』だと僕は思っているんですけど。」
気持ちのよいもの、普遍的なもの。そう、鞄工房山本のランドセルづくりが目指しているものと同じである。6年間、そしてそれよりも長く使っても飽きの来ない、丈夫で信頼できるランドセル。
六芒星デザインがランドセルに取り入れられる日も近いのかもしれない。
また、日本人ならではの感性を育てられるデザインも。
「唐草模様をステッチに取り入れたランドセルが次に出ます。」と常務。
「直線ではなく、緩やかなカーブを持った柱や壁。わざと凹凸があり奥行きがでる。そういった間接的な事でも感性が育てられる事もできますよね。奥行きの深い人間性も」と奥田先生が付け加えた。
「一流の人間を育てたかったら一流を知れ、と言いますよね。そういう意味ではこの夢こうろ染めのランドセルは一流の人間を育てるのには最高なんじゃないですかね。」
子どもがものを大切に使う事を覚え、良いものとは何か、優しさや感性など様々な事を、日常からランドセルや学校生活を通して学ぶことが、子どもたちにとって良い事だ、と信じて止まないのが奥田先生と工房主、両者ともに共通している事なのである。