ダイヤの鋭さ、木の硬さ
この工程を紹介してくれたのは山田。コバ塗りに関する工程を担当して1年半ほどだと言う。かぶせやマチの裁断や貼り合わせなどの制作全般を行なっている。つまり、ランドセルの顔とも呼べる部分の加工作業だ。 1ロット約50枚に対しコバ塗りを施すために、様々な準備作業が必要となる。裁断された革の裁断面は繊維がざらついている。その面を滑らかにするために、まずダイヤモンドのヤスリがついたローラーへと通していく。 スーッと素早い動きだが、山田が言うには、角度や力の入れ方など微妙な加減が必要となる。出来る限り滑らかな仕上がりにするためにも、こだわりを持っている作業だと言う。きれいなコバ塗りのために、革を締める作業を行なう山田。
「ランドセルで一番目立つ部分ですからね。」そう言いながら今度はダイヤモンドの付いたヤスリから木製のパーツに差し替えて、繊維を締める作業を行なう。いくら滑らかになったといえども、繊維の毛羽立ちがあるため、それをおさえることでより滑らかな断面となるのだ。 こういった下準備をせずにコバ塗り、つまりニスを塗ってしまうとどうなるのか。滑らかな仕上がりにならないばかりか、塗装面が浮き立ってしまい、最悪の場合ははがれてきてしまう。それが防水効果を弱め、革そのものへのダメージへとつながってしまう。 だからこそ、何気なく作業していても、革の状態をひとつひとつ確認しながら、鞄工房山本自慢の仕上がりのコバ塗りとなるような準備は怠ることが出来ない訳である。ミリよりも繊細な心と技
しっかりと滑らかになった革の断面に今度は薬剤が手作業で塗られる。小さなスポンジを使って、均一になるように。この薬剤が防水効果を出すために重要な下地となる。 早さも量も、すべて均一。はみ出ることも無い。スピードと力加減は、ランドセルづくりには欠かせない技術なのだ。 その技術の集大成とも言える作業が、色のついた塗料を塗っていく作業。色や季節によって塗料の付き方が変わってくる。肌感覚でそれを感知し、山田は自分なりの塗る回数やスピード等を決めている。 「赤のように薄い塗料は色がのりにくいので3回塗ります。濃い色であれば2回です。また、コードバンは表面の輝きが他より良いのでそこに合わせるためにも3回塗ります。」専用の機械に革を当てる。しかし、塗料の厚みなどの加減は感覚勝負。
この1ロット・50枚のかぶせを1回塗り終えるのにかかる時間は1時間半。 ずっと集中しムラが出ないように慎重な作業が続く。工程について話してくれている時の目とは違い鋭い眼光だ。 「最初は押す加減、つまり力の入れ方に失敗してムラが出ましたね。」 かぶせの長い直線部分を均一にすることはもちろん、曲線部分に対してもコツをつかむまでに1ヶ月の試行錯誤があったという。そして、塗料の出る加減も自分に合った具合を見つけなければならなかった。 「口をちょっと開くだけで出てくる量がかなり変わるんです。」 そう言って調整つまみを操作してくれるが、作業に戻る時にはすぐに『自分なり』のポジションへと戻せる。コンマ何ミリの調整だ。 もちろん、代々引き継がれてきた、ボトル1本でどれだけの作業が出来るかが書かれたメモもある。しかし、自分なりの感性で判断し、感覚を自分の体にしみ込ませてランドセルがつくられていくのだ。コバ塗りを紹介してくれた山田。
「コバ塗りは鞄工房山本の特徴でもあり、他よりもきれいだと思いますね。」