鞄工房山本のオリジナルランドセルの原点は、工房主が長男と次男につくった特別なランドセルです。そして、そのランドセルを6年間大切に使った2人は現在、当社で働いています。
今回のブログでは、家族を結ぶ思い出と、当社に受け継がれる想いをご紹介します。
父親から息子へ「世界に1つだけのランドセル」
鞄工房山本が、ランドセルメーカーとして百貨店やブランドのためにランドセルを製造していた頃のこと。
工房主の長男が小学校に入学する年になり、「息子のために最高のランドセルをつくりたい」と、当時の技術のすべてを注ぎ込んだランドセルづくりがはじまりました。
「僕は青色が好きだったんで、それを知っていた父親が紺色でつくってくれました」。
黒と赤のランドセルが主流だった当時としては珍しい「紺色」の革を使い、「息子が喜ぶように」と内装や金具などもこだわって選び、細かい工夫を重ねました。そしてついに、子の幸せを願う親心とたくさんの愛情が詰まったランドセルが完成! お披露目のときを迎えます。自分のためだけにつくられた特別なランドセルを目の前にした6歳の長男は、「世界に一つだけのランドセル!」と満面の笑みを浮かべて力いっぱい喜んだのでした。
実際に6年間愛用したランドセルを前に、当時について「黒ばかりのなかで紺色というのは、相当目立った」と振り返ります。控えめな長男にとって、想いの込もったランドセルが注目を集めることは、「気恥ずかしくもあり、うれしくもありました」。しかし幸いにも、黒に近い濃い紺色で「オーソドックスでシンプルなデザイン」だったこともあり、からかわれることはありませんでした。そして、「自分でもランドセルをつくるようになってから思うことですが、コバ塗りとか、全体の凛とした雰囲気とか、整ったフォルムとか、20年以上前の当時から『鞄工房山本のランドセル』というエッセンスがありました」と長男は感じています。
「世界に2つだけのランドセル」
その1年後、次男のためにもう一つのランドセルがつくられることになりました。当時の次男の希望はただ一つ、色もデザインも「お兄ちゃんと一緒」でした!
「お兄ちゃんのことが大好きだったんで。『お兄ちゃんと一緒!』と言ったのは覚えています」。
二人は、よく遊んでよくケンカもする、とっても仲良しな兄弟でした。弟にとって、大好きなお兄ちゃんと一緒のランドセルを背負えることほど、うれしいことはなかったはずです。
ランドセルの色についても、「当時はランドセルというと、黒と赤がほとんど。でも、紺だったらクールに見えるし、小学生も好きな色で、『ちょっと違ってかっこいいやん』という第一印象でした」と、当時からお気に入りだったそうです。
一方、2年生になった長男は作文で「世界にひとつだけのランドセルをつくってもらったけど、ハル(次男)が1年生になって世界でふたつだけになりました」と書きました。これには「うまいこと言う」と感心し、ほほえましく思ったという工房主。
長男は、かわいい弟が自分と同じ特別なランドセルを喜んで背負っているのがうれしかったのかな、それとももしかすると子ども心に少しさびしさを感じたのかなとも感じる、かわいらしいエピソードです。
さらにその後、工房主は長女のためにも、ハートステッチがほどこされたローズピンク色のランドセルをつくりました。あたたかい親心の込もったランドセルは、身も心も大きく成長する子どもたちの6年間を支え続けました。
長男は、学校でも家でもランドセルを放り出すことはなく、かぶせ(フタ)を下にして置くこともありませんでした。「4、5年生にもなったらまわりの子たちのはボロボロだったりぺしゃんこだったりしたけど、(自分のランドセルは)綺麗で。つくりが堅牢というのもあったけれど、子どもなりに丁寧に使った記憶がありますね」。次男は外で遊ぶことも多く、元気いっぱいの小学生でしたが、「ランドセルが壊れたりとかは全然なかった」といいます。表面の傷やしわ、コバのはがれは、ランドセルに刻まれたそれぞれの成長の証です。
今回久しぶりに当時愛用していたランドセルを見て、「こんなに小さかったんだ」と二人ともびっくり。そこで、十数年ぶりに背負ってもらいました! 当時は大きく感じたランドセルも、いま背負うととても小さく感じますね。
子どもたちにとっては、小学校生活で一番身近な持ち物ともいえるランドセル。それが丹精を込めてつくられたものであれば、二人の兄弟のように、心のなかに「ものを大切にする気持ち」が自然と芽生えて育つきっかけとなるかもしれません。
ものづくりを支える想いとランドセルに込める願い
実は、長男と次男のためにつくったランドセルが元になって誕生したモデルが、当社の人気シリーズ「
アンティークブロンズ」です。そして、長年試行錯誤しながら磨かれてきた技術は、当社のオリジナルランドセルのすべてに受け継がれています。
「贈る相手の顔が見える喜び」と「その相手を想ってつくる楽しみ」。工房主にとって、このような喜びや楽しみは、実際にランドセルを持つお子さんやそのご家族と接する機会の少なかった当時はなかなか実感がわきづらいことでした。
自分の子どもたちへのランドセルづくりを通して大切なことに気づかされ、「贈る相手を想ってつくったものはより一層輝いて見える」と改めて感じたことから、工房主のなかにお客さまへ直接ランドセルをお届けしたいという想いが生まれます。
そこから準備を重ね、工房直販を開始してからもうすぐ19年。ショールームや工房でたくさんのお子さまの笑顔と出会いながら、お一人おひとりに感謝の気持ちと小学校生活への願いを込めてランドセルをつくり、お届けしてきました。
そして当時、自分のためだけにつくられた世界に1つだけのランドセルを手に笑顔を浮かべていた2人は現在、当社でランドセルを贈る側の一員として働いています。
長男は、「子どもが好きなので喜んでもらえるのはうれしいし、工房見学で『何してるの?』とか聞かれて、牛革について子どもたちにもわかりやすいように工夫して話をしたり、展示会ではしゃぐ姿を見られたりするのもうれしい。そういうのって、他の製品ではなかなか得られないというか、ランドセルをつくっているからこそだなと思います」と話してくれました。
当時、工房主が親として3人の子どもたちに祈った「6年間を健やかに過ごしてほしい」という気持ちは、これからご入学を迎えるお子さまへの親御さまの願いとまさに同じだと思います。そして、当社のスタッフは皆、そのような願いや愛情を込めてランドセルをつくり、心を込めてお届けしています。
工房主の抱いた「親心」がつないだ未来に、その想いはしっかりと息づいています。
一人ひとりのランドセルストーリー
今回ご紹介した、工房主が大切な家族のためにランドセルをつくった思い出は、鞄工房山本のランドセルの原点であり、「ものづくりの心」を支える力となっています。
ランドセルとの出会いは一期一会であり、お子さまの数だけランドセルの物語が生まれます。
お気に入りのランドセルに出会ったとき、心待ちにしていたランドセルがお家に届いたとき、自分だけのランドセルを初めて背負ったとき、「よく似合っているね」「素敵だね」と声をかけてもらったとき……。皆さまにとって、どの瞬間が心に残るものとなるのでしょうか。
お子さまがランドセルと過ごす月日は、ご入学前からご卒業後までの、長いようで短い時間です。
たくさんのことを学び経験する小学校生活が、皆さまにとって、振り返ると笑顔で話せるような素敵な6年間となりますように。そして、そのような日々のあたたかい思い出に、当社のランドセルの記憶も寄り添うことができれば幸いです。