微妙な位置調整を、わずか3秒で…熟練の職人技
本革には繊維の密度と流れに部位毎にも、革毎にも違いがある。そして、”職人の目と手で一枚ずつ…鞄工房山本が『革の吟味』で魅せる技“で説明したように、使える部位も一枚毎に違ってくる。 それを見極めながら、かぶせ、大マチ、前ポケット、小マチ、そしてベルトの型をあてて線を引いていく。これが『型入れ』と呼ばれる作業だ。 かぶせのように強度、張りを大切にしたいパーツには、背にあたる部分を使用する。 「他の部位は絶対に使いません。」と工房主・山本一彦は言う。台紙をあてる場所は革毎に変わる。一瞬で見極めていく。
革の繊維方向、強度や密度を大切に、しかし出来る限り効率よく必要なパーツをとるために、本革に線を引いていく『型入れ』。作業は手際よく行なわれているかのように見える。しかし、右から左にスライドして型入れしているのではなく、微妙に位置を微調整しながらの作業だ。 尻に近い部位から首に近い部位へ。背中から腹へ向かう繊維の方向を大切に白い線を革に引いていく。そして、最後に下になる位置に小さな丸印をつける。一枚のかぶせの型入れにかかる時間はたった3秒。かぶせは通常4枚分つくる事が出来る、と工房主は説明する。 肩ベルトも同じ部位、方向を守る。 頻繁に開け閉めするかぶせは、繊維の方向と違う動きにより表面の割れが起き、背中の縫い目の部分の強度も弱くなり壊れてしまう。たくさんのものが入ったランドセルの重量を一手に引き受ける肩ベルトでも、縫い目の部分が外れてしまったり、革が伸びるのではなく切れてしまう事だってある。それだけに、最後の仕上がりと6年間の使用を想像して行なっていく作業なのだ。 ただ、天然素材なだけに完璧はない。だからこそ、出来る限り長い期間の使用に耐えうるように、想いを込めて、注意を払って。 「本革を熟知」している、ということは、出来上がる製品、つまりランドセルの完成品だけではなく、どのようなつくり方、縫い合わされ方がなされるのかを知り、子どもたちが6年間どのように使っていくのかを熟知している、と言う表れでもあるのだ。